ドアが開き、Cと名乗った声の主が現れるより先に、女性用の香水の強い香りが漂ってきてKの鼻をついた。
「あらあ、K関、お久しぶりね。あたしが誰か分かる?ずいぶん変わっちゃったからねえ、おほほ」
「え?,,,」
声の主の姿が、拘束されて仰向けのKの視界に入ってきた。

(な、何だコイツは...)
立派な体躯の、しかし見た目女性にしか見えない人物がそこにいた。
ロングのイブニングドレスを身にまとい、長い黒髪をシニョンに結い上げ、長い付け睫毛をしばたかせ、濃艶に化粧した人物。150キロはあろうという堂々たる体躯で上背も横幅も規格外に大きいが、バストとヒップ、出るところは出ている。美人とまでは行かないが、女力士のドレスアップとしては悪くない風貌だ。

しかし、Kにとってその顔にはどこかに見覚えがあった。女では無く男で。
「K関?ちゃんこ番、って言えば分かるかしら?んふ」
「お、おまえはあの...」
「そうよ、ちゃんこ番よ。いろいろあって、このUHSで相撲取ってるの」
「その姿は...どうしたんだ?」
「見ての通りよお、んふ。アタシは女力士として生まれ変わったの」
「え?じゃあもう、ツイてないのか...」
「先月まではツイていたんだけどね...。負けた方がちょん切られる、という勝負に負けちゃったのよお。まあでも、オンナも悪くないわね。女力士は甘めのハンデもらえるのよ。それ活かしてこの地下土俵でしっかり喰ってますわよ、おほほほ」
「声は、どうしたんだ?そんなに甲高くなかっただろ?」
「ああこれ?ちょん切られたのとセットで手術されちゃったのね。女力士は闘ってるときの色っぽい喘ぎ声も大事だからって」





「...」
「ウルトラ・ヘンタイ・相撲」と言う言葉がKの脳裏に浮かび上がる。
(ウルトラ・ヘンタイ・相撲か,,,オレもこんな風にされてしまうのか?嫌だ!)
「オ、オレもお前のようにされるのか?」
「さて、それはわかりませんことよ。ただね、一つ忠告しておくけど、UHSから『シャバ』にはもう戻れないわよK関。だから命令には絶対に服従して、この世界で生きていくことだけを考えないと駄目。そうすれば、そんな酷いことも無いわよ。アタシはいま彼氏いるしね、うふふ。じゃあね!」

性転換女力士Cは豊満なヒップを振りながらKの視界から姿を消し、やがてドアの閉まる音が室内に響いた。

「さてK...もうK関とは呼ばないからな...。あのCがデビュー戦の相手だ。勝負の結果次第でおまえのキャラ設定が決まる」
「お、オンナとやるのか?...い、いや、女力士とやるのですかボス?」
「そうだ。でもハンデキャップ戦だから簡単には行かんぞ。相手はレディだから、張り手だノド輪だ危ないから禁止だ。砂まみれにしても駄目だから投げも禁止。まわしを取っての吊り出しだけ許されるルールで取ってもらう」
「わ、わかりました...」
「とりあえず、負けたらオカマキャラになってもらう条件で取ってもらうか、ふふふ。がんばれよ」
「はい...」

いきなり決まった性転換女力士Cとのデビュー戦。しかし三役を務めるKの力量なら、ハンデ満載の条件でも、もともと取的なうえ今は玉竿の無いCに負けるとは思えない。
(油断は禁物だがまあ負けることは無いな。よし、軽くデビュー戦を飾って、この地下土俵で不敗の横綱になってやる、そうして生き抜いていこう)

地下土俵UHSでの出世を自らに誓うKであった。

翌日、ボスの部屋。

「ボス、Kはどう言うキャラに仕立てるんですか?」片腕格の幹部がボスに話しかけていた。
「あそこまで出世したKだ、ふつうならまんまで勝たれてここの横綱は確実だが、それでは面白くない。最終的には横綱にしてやるつもりだが、そこまでの過程で盛り上げないとなあ、ふふ」

(続く)