(本作品は、「人工美女の館」(byひとみ絵里さん)のファンフィクションです)


(9)
1時間後。俊恵は隆造との朝食を終えていた。メイドが退出した後、隆造が俊恵に話しかける。
「さて俊恵、先ほどわしが渡した封筒の中身通りにしてくれるかな?」
笑みを浮かべながら、決して笑っていないその眼で俊恵を見据える隆造。

「はい、隆造様」
緊張の面持ちで返事を返す俊恵。やがて、俊恵は練習の結果だいぶ板についてきた裏声で、隆造に向かいこう語り始めた。

「大神隆造様。わたくし『俊恵』は、以前は杉浦俊夫と言う名の男性で、隆造様を敵視して追いかけるルポライターでございました。隆造様の手に落ち、殺されても仕方のないところでしたが、何の縁(えにし)か、ご寵愛いただき、隆造様の手によりそのご寵愛に応えることの出来る『オンナ』の体に生まれ変わり、愛妻として娶っていだたくこととなりました。まことに嬉しゅうございます」

とても信じられない歯の浮くような挨拶...もちろん俊恵の本心ではなく、隆造が渡した封筒の中身そのままを暗唱しているのだ。

一息ついて、俊恵は後半の語りを始めた。

「隆造様。俊恵はあなた様の子種を孕むことが出来ない不完全な女体ではありますが、それを補って余りあるような、あなた様の貞淑で従順な妻になるよう、一生懸命花嫁修業いたします。容姿を磨き、女らしい立ち居振る舞いを身につけます。さらには、初夜より隆造様のどのような要求にも応えるべく、夜伽は特に入念に修行いたしたく存じます」

「存じます」で深くお辞儀をして、俊恵は語りを終えた。

「良く出来たな、俊恵。これで正式な婚約が成立だ、ふふ」
満足そうな隆造。逆らうことなど不可能な俊恵にわざわざこんなことを言わせるなどまったくの茶番であるが、「儀式」として、仇敵に無理矢理性転換され女体に変えられたうえその妻にされるという、きわめて理不尽ないたぶりと屈辱を「受け入れます」と俊夫/俊恵に宣言させたことで、隆造の強烈な嗜虐趣味は満足を得るのであった。

「俊恵、では婚約の記念品を渡そう」
記念品...指輪ではないのかしらと考える俊恵。ポケットをまさぐる隆造。出て来たものは、やや変わったデザインのペンダントであった。
「肌身離さない様にな、俊恵」
「はい、有り難うございます」
そう言いながら、俊恵はペンダントの奇妙な形状を訝しんだ。また何かのいたぶりの種があるのかしら...。





ペンダントは金で出来ていて、二つの楕円形の玉が並ぶ00のようなデザインであるが、その大きさと形状はどこか男性の睾丸を連想させる。
「ロケットになっている、開けてごらん」
「は、はい」ロケットを開く俊恵の顔がわずかに蒼ざめた。
「どうだね?気に入ってくれたかな?」
「はい、す、素晴らしいものを有り難うございます」
俊恵は動揺を悟られまいと必死だが、隆造にはそんなことはお見通しである。
ふたつの玉には合わせになる恰好で写真が4枚入るようになっている。1枚は、なんと男性時代の俊夫のスーツを着こなしたポートレートであった。合わせの反対側はこれから写真が入るようで何もない。二つ目の玉が隆造の悪趣味の真骨頂。性転換手術前と手術後の手術台上の裸体の写真だったのだ。強制改造の記録を肌身離さず付けさせることにより、過去を忘れて今の女体に溶け込もうとしても、折りに触れ強制改造の悪夢を思い出すように仕向ける隆造、鬼畜である。
4枚目のスペースは空きになっていた。
「空いているところは、将来のお楽しみだ、今は秘密にしておこう、ふふ」
「ひみつ...」空ろに相づちを打つ俊恵。
そこに隆造の企みがあるのは歴然だが、いちいちそれに思いを巡らしても仕方がない。俊恵はそれきり黙った。

それから2ヶ月後。年明けの披露宴まであと少し、世間ではクリスマスだが、隔離された俊恵には、窓から見える寒々とした風景で冬を感じるのみである。俊恵は髪の毛が伸び、地毛でスタイル出来るようになっていた。初の地毛ヘアセットは、隆造が見つめる中で行われた。女らしくカットされ洗われた地毛にはヘアーカーラーが巻かれ、ネットがかぶせられ、ドライヤー、いわゆる「お釜」をかぶるまでをしげしげと見つめ、カメラに収めて行く隆造。

「わしは女性のカーラー姿が好きなのだよ、俊恵。正確に言うならば、強制的に女性化された元男性の、だがな。ふふ」
それには答えず、恥ずかしそうにうつむく俊恵。隆造の嫌味やからかいに慣れてきた俊恵が身に付けたささやかな知恵であった。
隆造も慣れられたことは承知していて、それ以上は追求しない。
「俊恵、その姿でちょっとキスしないか」
「はい、隆造様」
カーラー・ヘアネット姿の俊恵は隆造に抱きしめられ、されるがままに唇を奪われ、舌を差し込まれていた。隆造のなすがままに愛されるその姿からは、いささか芝居がかっているものの、女らしさが匂ってくる。
「ああ、すべてを忘れたい...隆造を心から愛するお人形妻になってしまいたい...」
心の中でつぶやく俊恵。

「ふむ、全てを諦め女体に馴染もうと懸命だな...しかしそれではいささか面白くない。次の手を打つか」
熱いくちづけを交わしながら、隆造は心の中で、俊恵をいたぶる次なる術を考えていた。

【続く】